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巨木は(…というか、樹木はすべて)たまたま種子が落下した地面に根を下ろし、一生を同じ場所で過ごすことになっている。その定点性が、時代を超越する長寿命とともに、私のようにフワフワと浮ついた人間には一種の憧れのように思われる。これが、巨樹に魅せられた理由の一つでもあった。
しかし、どの世界にも変わり者はいるもので、この木は、今から155年前の弘化4年(1847)3月24日に180mもの距離を移動したことがある。現在の推定樹齢は600歳だから、すでにかなりの巨木だったはずだ。
その日、北信濃一帯を大地震が襲った。いわゆる「善光寺地震」である。当地には大規模な地滑りが発生し、表土は大杉を乗せたまま、180mも流れ下った。
上の写真をよく見てほしい。幹の1本がかなり傾いている。滑ったときに傾いたのが、そのまま固定されてしまったらしい。
写真ではよく分からないが、傾きは先端まで同じ角度で保たれている。ピサの斜塔みたいだ。木の幹には負の向地性があるはずなのに、何故だろうか。
下の写真を見てほしい。向かって左の1本が黒く焦げているのがわかるだろうか?これが傾いている幹である。焦げはずっと上部まで続いている。さらに、そこには裂け目もはっきり刻まれている。この木は落雷にあったのである。
多分、落雷は地震以前だったのだろう。枯死した幹についていた根の力も弱くなり、滑った際に、この1本だけが大きく傾いてしまったのかも知れない。
名は三本杉だが、これは太い幹が3本あるための命名で、実際は1本の木だ。
曹洞宗臥雲院の境内に立っている。 |
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